安楽寺だより第56号(第15回 王舎城の悲劇①②)

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観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)は、浄土真宗や浄土宗などでとても大切にされているこのお経ですが、実はその導入部分は、まるでサスペンスドラマのような衝撃的な事件から始まるのをご存知でしょうか?
それは古代インドのマガダ国で実際に起きたとされる「王舎城(おうしゃじょう)の悲劇」
今回は、人間の欲望と愛憎が入り混じるこの物語について、少しお話しさせてください。

(その1)待ちきれなかった三年と、悲しい因果

物語の発端は、マガダ国の国王ビンバシャラと、その妻イダイケ妃の悩みから始まります。
二人は国を治める立派な王夫妻でしたが、どうしても世継ぎの子供が授かりませんでした。

悩み抜いた二人は、ある占い師に相談します。
すると、「山に住む仙人が、あと3年で寿命を終え、その生まれ変わりとしてあなた方の子供になるでしょう」という予言を得たのです。
しかし、世継ぎを熱望するあまり、二人はその「3年」を待つことができませんでした。
「どうせ死ぬ運命なら」と、なんとその仙人を殺めてしまい、無理やり子供を授かろうとしたのです。

その後、イダイケ妃は懐妊しますが、再び占い師に見せると今度は恐ろしい予言が。
「この王子は将来、王に危害を加える怨みを持って生まれてくる」と。
それでも二人は生まれた子に「アジャセ」と名付け、愛情を注いで立派な太子へと育て上げました。過去の過ちを隠して。

忍び寄る影と、暴かれた秘密

アジャセ太子は、武勇に優れた若者に成長しました。
しかし、そこに目をつけた一人の男がいました。
お釈迦様の従兄弟でありながら、教団の乗っ取りを企む野心家、ダイバダッタです。

ダイバダッタは、お釈迦様を殺して自分が新しい指導者(新仏)になろうと画策しており、そのためには強力なパトロンであるアジャセ太子を味方につける必要がありました。
そこで彼は、アジャセの心を操るため、封印されていた「出生の秘密」を打ち明けてしまうのです。 「あなたの両親は、自分たちの欲望のために、前世のあなた(仙人)を殺したのですよ」

信頼していた人からの衝撃的な告げ口。アジャセ太子の中で何かが音を立てて崩れ落ちました。
愛憎は殺意へと変わり、彼はダイバダッタの甘い言葉に乗せられ、父王を倒すクーデターを決意するのです。

(その2)崩壊する家族、そして母の絶望

クーデターは成功し、父ビンバシャラ王は七重の壁に囲まれた牢獄へと幽閉されてしまいます。食事も与えられず、餓死を待つだけの残酷な仕打ちでした。

ここで動いたのが、母であるイダイケ妃です。彼女は密かに体を清め、体に蜂蜜などを塗って牢獄へ運び、夫の命を繋ぎ止めようとしました。
しかし、その行為が息子アジャセに見つかってしまいます。 逆上したアジャセは、剣を抜き、なんと実の母に斬りかかろうとしたのです。「父に味方する者は、母といえども敵だ!」と。

間一髪のところで、賢臣である大臣たちが「王よ、父を殺した王は歴史にいますが、母を殺した王など聞いたことがありませぬ。それは人の道に外れます!」と必死に諫め、なんとか最悪の事態は免れました。
しかし、イダイケ妃もまた、王宮の奥深くへと幽閉されることになります。

救いを求めた先にあるもの

愛する息子に命を狙われ、夫とも引き裂かれ、暗い部屋に閉じ込められたイダイケ妃。
彼女の心はどれほどの絶望に包まれていたことでしょう。
「私が何をしたというの…。あの時、仙人を殺してしまった報いなの…?」

身も心も疲れ果てた彼女は、最後の希望を託して、遥か彼方の霊鷲山(りょうじゅせん)にいらっしゃるお釈迦様に向かい、涙ながらに礼拝し、助けを求めました。
この泥沼のような悲劇のどん底から、仏教の名典「観無量寿経」の教え、つまり極楽浄土への救いの道が開かれていくのです。

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様々な宗派から改宗を悩んでおられる方も多くいらっしゃるかと思いますが、ご先祖さまや故人の葬儀や永代供養墓を託される前に、お寺の住職様が日々何を大切に守り生きて来られたのか、是非ご一読いただけますと幸いです。

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