お釈迦様は、そんな「炎」を例えにして、人間の心の奥底にある欲望の正体を説かれました。
悟りを開いたお釈迦様が、たった5人の弟子から始めた小さな教団。それがどのようにして巨大なうねりとなり、国王をも動かす大きな宗教へと成長していったのか。今回は、仏教が爆発的に広がりを見せる「伝道の始まり」のエピソードをご紹介します。
炎を拝む人々に説いた「心の炎」
悟りを開いた後、お釈迦様は「仏(悟りを開いた人)・法(その教え)・僧(教えを実践する仲間)」という「三つの宝(三宝)」を広めるため、再び旅に出ました。
目指したのは、当時の宗教的中心地であったマガダ国。そこには、火を神聖なものとして崇める「拝火教(はいかきょう)」のリーダー、カーシャパ三兄弟と、その1000人もの弟子たちがいました。
※拝火教は、火を神聖視する世界最古級の啓示宗教で「ゾロアスター教」とも呼ばれます。
お釈迦様は彼らを教化し、なんと全員を仏教の弟子にしてしまったのです。
その後、ブッダガヤー近くの「象頭山(ぞうずさん)」の頂に登り、元拝火教徒だった彼らに向かって、彼らが最も馴染み深い「火」をテーマにした説法を行いました。これが有名な「燃焼の説法」です。
「すべては燃えている。 何が燃えているのか?
それは、あなたの眼、耳、鼻などの感覚器官だ。
それらが引き起こす『欲望』や『怒り』、そして『無知』という炎によって、あなたの心は激しく燃え盛っているのだ」
彼らは火を外側の神として拝んでいましたが、お釈迦様は「本当に消すべき火は、あなた自身の内側にある煩悩の火だ」と教えたのです。この逆転の発想に衝撃を受け、1000人の弟子たちは深く悟りを開いたといいます。

王との約束、そして「竹林精舎」の誕生
1000人の新たな弟子(元拝火教徒の集団)を引き連れ、お釈迦様はマガダ国の首都・王舎城(おうしゃじょう)へと入ります。
そこには、ある「約束」が待っていました。
まだお釈迦様が王子として出家したばかりの頃、若き日のビンビサーラ王(ビンバシャラ王)と出会い、こう約束していたのです。
「もしあなたが悟りを開いたら、必ず戻ってきて、私にその教えを説いてください」と。
約束通り戻ってきたお釈迦様を見て、王は感激します。そして、お釈迦様の説法を聞いた王は、仏教の真理に触れ、多くの家臣と共にその場で帰依(弟子入り)しました。
「お釈迦様と大勢の弟子たちが、雨季の間、安心して修行できる場所が必要だ」
そう考えたビンビサーラ王は、王都の近くにある閑静な竹林を寄進し、そこに建物を作りました。これが仏教教団にとって最初の本格的な寺院、「竹林精舎(ちくりんしょうじゃ)」です。

現代に続く「心の消火活動」
たった一人で始まった悟りの旅は、やがて1000人の修行者を巻き込み、一国の王をも動かし、ついには教団の拠点を持つまでに至りました。
お釈迦様の教えが、当時の人々の心にいかに響いたかがわかりますね。
現代の私たちも、スマホやSNS、尽きない欲望やストレスで、知らず知らずのうちに心が「炎上」していることがあります。
もし心がざわついた時は、象頭山のお釈迦様の言葉を思い出してみてください。「今、私の心は燃えていないか?」と自分に問いかけること。それが、心の炎を鎮める第一歩になるはずです。




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